常念山脈(長野) 前常念岳(2661.9m)、常念岳(2857m)、蝶ヶ岳(2677m) 2023年6月24日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 0:56 三股駐車場−−1:11 三股−−3:00 2170m肩−−4:17 前常念岳−−5:08 常念岳 5:47−−6:28 2512m峰−−7:03 2592m峰−−7:51 蝶槍−−8:01 横尾分岐−−8:21 蝶ヶ岳ヒュッテ−−8:26 蝶ヶ岳 8:58−−9:47 蝶沢−−10:10 まめうち平−−10:44 力水−−10:50 水浴び 10:55−−10:56 吊橋−−11:03 林道終点−−11:13 三股駐車場

場所長野県安曇野市/松本市
年月日2023年6月24日 日帰り
天候薄曇
山行種類一般登山
交通手段マイカー
駐車場三股に第一駐車場ありだが週末は満車になることが多く、手前の第二駐車場を利用することになる
登山道の有無あり
籔の有無無しだがまだ今シーズンの整備は2170m肩より上側であり、それより低い区間は笹が足元を濡らす箇所あり。通常は夏山シーズン前に全て刈り払いされる
危険個所の有無無し
山頂の展望各山頂とも晴れれば文句なしの大展望
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コメント初めての三股起点常念岳〜蝶ヶ岳日帰り周回に挑戦。結果的には達成したが蝶ヶ岳からの下りの後半はかなり苦しかった。残雪は蝶沢だけであり傾斜が緩いのでアイゼン不要。真夏のように湿度が高かったようで雲が多く早い時刻からガスが上がって来た。予想以上に花の開花が進んでおり蝶ヶ岳付近のミヤマキンバイは真っ盛りだった


常念岳から見た槍穂高連峰。この日は雲が多く他の山もすっきりとは見えなかった


夜中1時前に出発 林道終点の登山指導所。今の時期は帰りも無人だった
三股分岐を右へ 昨年無かった倒木 その1
2170m肩以下はまだ今刈り払い前 今年もイチヨウラン発見
昨年無かった倒木 その2 2170m肩以上は刈り払いされていた
ミツバオウレン マイヅルソウ
森林限界境界の梯子 標高2550m付近。明るくなってきた
蝶ヶ岳への稜線。雲が多い 東の空。雲が高く志賀高原の山々は見えなかった
雷鳥遭遇。まだ薄暗くこんなろくでもない写真に 前常念岳直下の避難小屋
今年初のツガザクラ 常念岳山頂はガスの中
稜線にもミツバオウレン。ただしハイマツの影 ミネズオウ
今年初のアオノツガザクラ 稜線にもイワカガミ。正確にはコイワカガミか
今年初のチングルマ 花は咲いてないけど今年初のタカネヤハズハハコ
ショウジョウバカマ ヒメイチゲ
キバナシャクナゲ 山頂が晴れてきた
大天井岳方面。後立山は雲の中 常念小屋テント場。金曜夜でもそれなりにいるようだ
今年初のイワウメ。草ではなく樹とのこと 縦走路に合流。一人先行者あり
約半年ぶりの常念岳山頂 山頂のミヤマタネツケバナ
常念岳から見た360度パノラマ写真。雲が多く展望がイマイチ(クリックで拡大)
常念岳から見た槍ヶ岳 常念岳から見た硫黄岳
常念岳から見た富士山 常念岳から見た南アルプス。雲が高くこれしか見えなかった
今回は蝶ヶ岳へ向かう 蝶ヶ岳山頂と蝶ヶ岳ヒュッテ。テントが見える
蝶ヶ岳方面に下った直下から常念岳山頂を見上げる 標高2730m付近から見た蝶ヶ岳方面
標高2690m付近から常念岳を振り返る 標高2640m付近
森林限界ではミヤマキンバイが最も多かった 今年初のクモマスミレ。葉がいかにも固くて厚そうに見える
コメバツガザクラ 森林限界では今年初のミヤマダイコンソウ
標高2550m付近 標高2550m付近から振り返る
2460m鞍部からの登り返し 2460m鞍部
本日最初にすれ違った登山者 コケモモの蕾。まだ開花していなかった
ヨウラクツツジの蕾?(自信なし) 初めて見たイワヒゲの花
2512m峰 2512m峰から見た常念岳
2512m峰から見た蝶ヶ岳方面 2560m鞍部で森林限界を割る
ミツバオウレンとバイカオウレンの違いは花弁の幅。どちらも見られた ミネザクラでいいのか?
2580m峰西側の巻き道。完全に樹林帯 サンカヨウ
標高2550m付近。草地はお花畑 シナノキンバイ
これもお花畑。シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲが中心 25692m峰から見た蝶ヶ岳方面
今年初のハクサンチドリ 今年初のキバナノコマノツメ。葉っぱが丸いのが特徴
セリ科の何か ミヤマキンポウゲ
ミヤマキンバイではなくキジムシロだった! その証拠に葉っぱが三つ葉ではない!
ミヤマキンバイとキジムシロの比較。花は同じように見えるが株全体を見ると何となく違いが分かる
標高2550m付近のお花畑 マイヅルソウは全て蕾だった
オオバキスミレ。葉の1枚が他より大きい 標高2510m付近の池
2510m小ピークから見た蝶槍 標高2500m付近
ヒメイチゲ オオサクラソウ
2462m鞍部 標高2530m付近
ミヤマカタバミ。日が高くなると開花する 標高2570m付近で森林限界突破
標高2570m付近から見た常念岳方面 標高2640m付近
蝶槍山頂 蝶槍山頂のイワツメクサ
蝶槍から見た南〜西〜北の展望。東はガスが上がって真っ白だった
南から蝶槍を見る 蝶ヶ岳方面。ガスが上がってきている
今年初のイワベンケイ 横尾分岐
常念岳方面へ向かう登山者と10人程度とすれ違う コイワカガミ
蝶ヶ岳への最後の登り 低く飛んだので雷鳥かと思ったらホシガラスだった
蝶ヶ岳ヒュッテ裏の小ピーク。展望盤あり 蝶ヶ岳ヒュッテ。北から見ている
蝶ヶ岳ヒュッテ。南西から見ている どうやらミヤマハタザオっぽい。花の形状はタネツケバナ似
テント場。さすがにもう撤収済みが多いだろう 蝶ヶ岳山頂へ
蝶ヶ岳山頂 蝶ヶ岳山頂の展望。穂高〜槍がかろうじて見えている
常念岳は雲の中 テント場西斜面のお花畑
ミヤマキンバイ シナノキンバイ
今年初のベニバナイチゴ ガスに向かって下山開始
ミヤマカタバミは花が開いていた キヌガサソウ
エンレイソウ ヒメイチゲ
オオバキスミレ お花畑はまだ雪の下
ヒメイチゲの群落 桜だが種類はミネザクラ?
標高2520m付近。登山道に雪無し イワナシ
サンカヨウ シナノキンバイ
オオサクラソウ 標高2470m付近
早くもオサバグサ登場 ミヤマカタバミの花と葉
カラマツソウかミヤマカラマツの蕾 オオカメノキ
蝶沢のみ雪渓が残っているがアイゼン不要の傾斜 蝶沢を越えるとオサバグサ祭り状態
オサバグサの葉。草の葉っぱと言うよりシダの葉のよう ゴゼンタチバナとマイヅルソウ
まめうち平 マイヅルソウ
上:普通のゴゼンタチバナ 下:緑の花のゴゼンタチバナ ゴゼンタチバナ群落
ギンリョウソウ クルマムグラかなぁ
ズダヤクシュ 今年初のユキザサ
どうやらタニギキョウらしい。とても小さく見落としがちなサイズ感 シロバナニガナ
ゴジラの木 階段
ミヤマカラマツ 力水(最終水場)
画像検索の結果、ヤグルマソウ。葉の形状からも間違いなし コンロンソウ。湿った場所に咲く。花はタネツケバナに似ている
吊橋南側の沢で今季初の水浴び 昨年も見たラショウモンカズラ
吊橋 セリ科は確実だが種類不明
三股分岐 画像検索の結果、タガソデソウ。分布が狭く希少らしい
林道終点。車が1台増えて4台に オドリコソウ
トラックが上がっていった 三股第一駐車場到着


 今週末は梅雨の晴れ間の予報。ここ最近は残雪を求めて針ノ木岳や白馬岳など後立山詣でが続いたので、久しぶりに常念山脈へ足を向けることにした。今年初である。このエリアでは残雪は少なく問題になりそうな場所はほぼ無いだろう。アイゼン、ピッケルが不要なので軽量化できる。

 行先は常念岳を考えたが、土曜日は丸一日安定した天気が続くとのことで、これまで挑戦したことが無かった三股起点の常念岳〜蝶ヶ岳周回をやってみることにした。最初に常念岳に登って蝶ヶ岳に向かう反時計回りのコースで、逆回りよりは中盤以降で登りが少ないので私にとっては足にやさしい。常念岳〜蝶ヶ岳の稜線は30年近く前にテントを背負って歩いているはずだが、当時の記憶は全く残っていない。

 地形図で確認すると常念岳から蝶ヶ岳への登り返しの累積標高差は約500mで、常念岳の登りと合わせれば累積標高差は約2100mであり、早月尾根経由剱岳や黒戸尾根経由甲斐駒の累積標高差2200mに迫る値だが、どうにか許容範囲内だろう。毎年何度か行う鹿島槍の北峰を含めた日帰りと同じ程度である。今回のコースは日が高くなった下山時は北向きの樹林帯の斜面や尾根を下るので、比較的涼しいはずなのが私にとって重要なポイントである。

 水曜日の仕事でちょっとばかり足に負担がかかることをせざるを得ず、翌日の木曜日は足が重い状態で週末にきつい山で大丈夫か心配になったが、常念岳への登りの段階で体力的にきつかったら常念岳登頂だけで下山すればいいかと行先には変更なし。

 今年初の三股だが何度も通った道なのでカーナビ無しでも迷うことは無い。国営アルプスあづみの公園入口を通過してゲートが開いた林道へ。一ノ沢林道よりウネウネがきついし舗装なのに路面状況が悪いので車の運転は要注意。無事に終点の第一駐車場に到着すると20台前後の車あり。今夜小屋泊まりや幕営の人だろう。今回はゲートに一番近い個所に駐車。こちらの方が夜間の車の出入りが少ないだろうとの予想だったがその通りだった。

 今回はコースが長いので常念岳山頂で日の出を迎えるくらいの時刻になるよう、午前0時過ぎに起床して午前1時前に出発。睡眠時間3時間はさすがにきつい。この時間は上がってくる車はいるが私のように出発する登山者は無し。頭上は星が見えないので雲に覆われているようだが、予報ではこれから晴れるはずである。いつものように使おうが使わまいがゴアは持つが、晴れた時の暑さに備えて麦わら帽子に濡れタオル、扇も持った。これらの装備は6月以降はデフォルト化している。

 LEDライトの光で歩き出すが、非常に微細ながら水滴が落ちているようだ。空から降ってくるリアルタイムの雨なのか、それとも夜間まで降っていた雨粒が木の葉から落ちる雫なのかは不明だが、どちらにせよ大降りすることは無いだろう。

 林道終点には3台の車があり、いつもより多いが全て蝶ヶ岳ヒュッテ関係者のものだろう。登山道に入るとオドリコソウの花。まだ真っ暗でロクな写真にならないのは明白なので帰りに撮影することにして、往路ではほとんど花の写真は撮影しなかった。

 昨年まで三股分岐には新旧2種類の標識があったが、今回は古い標識は撤去されていた。常念岳方面へと右折して沢から離れる前に250ccの小さなペットボトルに水を補給。ロングコースだが大半は気温が低い時間帯に歩くので、これで大丈夫だろう。一ノ沢と違ってこちらのコースはこの先には水場は無い。

 毎年夏山シーズン開幕直前に登山道の整備(刈払い)が行われるが、今週はもう終わっているか微妙な時期だとは思っていたが、標高2170m肩より上部の森林限界までの間は草刈りされていたがそれ以下はまだ未整備で、場所によっては足に触る笹のはみ出しがあって靴やズボンを濡らす。昨夜の雨が無ければ藪が乾いているので問題なかったのだが。今日は好天のはずなので歩いているうちに乾くだろう。ただし、森林限界を突破して前常念岳を抜けた先では笹ではなくハイマツが大いにはみ出しているので、あれが濡れていると今よりもっと濡れてしまう。稜線は風があるので乾いていることを祈ろう。昨年は無かった倒木が2本あったが、梅雨明けまでに処理されるだろうか。1本は邪魔な枝を切り落としてあった。

 ジグザグ道を上がっていく途中ではズダヤクシュ、ミツバオウレン、イワカガミ等の花を見かけた。「珍品」であるイチヨウランの花も発見したので暗闇だがライトの光で撮影してみたが、案の定出来の悪い写真にしかならなかった。

 2170m肩を通過して傾斜が緩むと泥沼状態が登場するので左右に避けながら進むのは毎度のこと。昨年秋も深まった時期は泥が凍って歩きやすかったが。再び登りにかかるとイワカガミ、マイヅルソウ、ミツバオウレンがたくさん咲いている。昨年はここでバイカオウレンを見かけた記憶があるが、今回はライトで照らせる範囲が狭いことも影響してか見当たらなかった。時々開ける頭上には満天とはいかないが星が見えることもあり、空全体が雲に覆われているわけではなさそうだ。

 徐々にシラビソの高さが低くなり立ったハイマツが現れれば森林限界は近く、標高2360m付近のアルミ梯子がまさに森林限界。これを登り終えると背丈を越える木が一切無くなって展望が開けるが、まだ真っ暗な時間帯なので展望は無いのが残念。でもシルエットで蝶ヶ岳への稜線が見えていて、そこには雲がかかっていた。こりゃ常念岳山頂も雲の中かな。

 森林限界を越えたとは言ってもハイマツが無くなるわけではなく、昨夜の雨でたっぷりと濡れたハイマツの葉がはみ出していて靴とズボンを濡らす。ここのハイマツのはみ出し具合はまだいい方で、前常念より先でもこれくらい濡れているとズボンはびしょ濡れになってしまう。

 花崗岩の巨岩の西側斜面を上がっているとオス雷鳥の鳴き声あり。まだ真っ暗だし離れた場所なので姿は見えない。さらに高度を上げて周囲が薄明るくなった頃に目の前からバタバタを羽音をたてて飛び立った雷鳥がいてびっくり。全く気付かなかった。さらに登って降り立った付近を見渡したらメス雷鳥を発見。まだ明るさが十分ではなく私のコンパクトデジカメではピントが合わなかったので、撮影した写真は予想通りろくな出来ではなかった。

 やがて周囲が明るくなると東の空は背の高い雲に覆われて志賀高原の山々は完全に雲に没していたので、当然ながら奥日光方面も雲の中。浅間山まで南下すると雲が少なくなるようで山並みが見えていた。でも八ヶ岳には雲がかかり南アルプスも雲の中だった。

 前常念岳直下の避難小屋に到着する頃にはライト不要な明るさに。前常念岳まで登ると常念岳山頂が見えるが残念ながらガスの中。でも時間が経過するとガスが切れるかな。ここまで半袖で登ってきたが、稜線は西寄りの風がややあるのでここで毛糸の帽子、ネックウォーマー、フリースの手袋を着用した。

 常念岳はお世辞にも花が多い山とは言えないが全く無いわけでもない。常念乗越から山頂までよりも前常念岳から山頂までの方が花の種類は多い。ミツバオウレン、イワカガミは相変わらず見られるが、その他にショウジョウバカマ、ヒメイチゲ、ツガザクラ、アオノツガザクラ、ミネズオウ、チングルマ、キバナシャクナゲが見られた。まだ花は咲いていないがタカネヤハズハハコがニョキニョキと出ていた。縦走路との合流点付近では今年初のイワウメが咲いていた。

 予報通りと言っていいだろう、時間経過と共に常念岳山頂部にかかっていたガスが切れて姿を現した。右手には大天井岳への稜線と燕岳、餓鬼岳など常念山脈北部が見えているが、後立山の山並みは雲の中に隠れていた。今日の場所の選択は正解であった。常念乗越のテント場にはいくつかテントが見えている。昨日は寒気の影響で大気の状態が不安定で日中から夜中にかけて雨が降っただろうから幕営も楽ではなかっただろう。

 縦走路に合流すると山頂へと登っている単独男性の姿があったがその1人だけで、下を見ても人の姿は無かった。男性は写真を撮影しながらのんびりペースだったので私が追い越して先に常念岳山頂に到着。無人かと思ったら風を避けるように先客2人が朝飯の最中だった。

 山頂のガスは晴れたが雲の高さは相変わらずで志賀高原は見えず、裏銀座や立山、劔岳、後立山の稜線には雲がかかったままだった。槍ヶ岳はさっきまで雲が絡んでいたが徐々に雲が取れてきた。槍穂はすっきり見えているが、霞沢岳や乗鞍岳は雲の中で、木曾御嶽の頭が雲の上に出ていた。やはり今日は湿気が多いようだ。

 北西の風を避けて休憩。常念岳山頂では毎年見られるが、足元にはミヤマタネツケバナの小さな花。昨年はこの名にたどり着くのに苦労したなぁ。ちなみにグーグルの画像検索を試したらタネツケバナが一発で出てきた。ここまで正解に近ければ残りはネットで調べれば正解にたどり着くのは難しくない。ちなみにまだ種類の同定ができていなかった時にはミヤマハタザオかと思っていたこともあったが、画像検索の候補でもヤマハタザオが入っていたので当たらずも遠からずと言ったところだろうか。

 追い越した男性は上高地の小屋でバイト中で、昨日と今日は休日なので蝶ヶ岳、常念岳経由で常念小屋に宿泊し、これから上高地へ戻るとのこと。飯を食っていた2人は大阪からやってきたとのことで、本来は足尾山塊の皇海山を考えていたが土日とも天候が悪いとの予報だったので常念岳に転進とのこと。一ノ沢から上がってきて、今日は一ノ沢へ下るとのことであった。まだまだ朝早いのでここでのんびりできるだろう。時間経過と共に北アルプスにかかっていた雲が徐々に取れてきて裏銀座の山並みが姿を現したので、もう少し粘れば立山や剱岳も見えるようになるかもしれない。

 上高地の男性が先に下って行ってしばらくしてから私も蝶ヶ岳に向かう。常念岳から最初の鞍部である2460m鞍部にかけての下りは、前常念岳から森林限界にかけての花崗岩の尾根にそっくりであった。花崗岩の巨岩とそれが風化した白い砂礫地が続き、登山道は尾根直上よりも尾根西側直下に付けられた区間が長い。乾燥した砂礫地なので生えている植物はハイマツの他にはミヤマキンバイが目立ち、高山地帯に生える黄色いスミレであるクモマスミレも多く見られた。クモマスミレは森林限界以上の岩場や砂礫地など土が無い場所に生えていて、葉っぱが固く分厚そうに見えるのが特徴だ。数は少ないがミヤマダイコンソウ、コメバツガザクラも見られた。森林限界で開花しているミヤマダイコンソウを見たのは今年初めてだ。

 2460m鞍部手前で先行していた男性を追い越す。私と同じように写真撮影を頻繁に行っているようで、途中で立ち止まっている姿をよく見かけた。花が多くなると私も停止する時間が長くなるので逆に追い越されるかも(実際に追い越された)。

 2460m鞍部はまだ森林限界を越えた植生で幕営にちょうどいい砂礫地があった。登り返すと蝶ヶ岳方面から下ってきた単独男性とすれ違う。2512m峰への登りではコケモモの蕾、そして初めてイワヒゲの花を発見。イワヒゲの葉っぱは鹿島槍で見たことがあったが花が付いていなかったが、あれは7月中旬以降だったと思うのでおそらく花が終わった後だったのだろう。花の形はツガザクラにそっくりであった。

 森林限界を越えて展望が開ける2512m峰を下っていくと2460m鞍部付近で森林限界を割り込んで矮小なシラビソ樹林帯に突入する。これ以降は蝶槍への登りまで断続的に樹林帯が続く。樹林帯ではミツバオウレン、バイカオウレン、ヒメイチゲ、ショウジョウバカマ、サンカヨウ、イワカガミなどが見られた。ミツバオウレンとバイカオウレンは似た花であるが、バイカオウレンの花弁の方が幅が広く梅の花に似ている。葉は名前の通りミツバオウレンは明瞭な三つ葉で、バイカオウレンは五つ葉である。

 ずっと樹林帯というわけではなく、残雪の多い場所だろうか、樹林が開けて草地になっている場所があり、そこは例外なくお花畑になっていた。まだ花のピークには早くて咲いているのは主にシナノキンバイとミヤマキンポウゲ、ミヤマキンバイ、キバナノコマノツメ、オオバキスミレであった。数は少ないが今年初にお目にかかるハクサンチドリが混じる。

 キバナノコマノツメ、オオバキスミレはどちらも黄色いスミレで花は同じ見かけなので花だけで判別するのは無理があるが、葉っぱは明瞭な違いがある。キバナノコマノツメはイワイチョウのように丸い葉で、オオバキスミレは先が尖った心形で3枚一組のパターンが多く、そのうち1枚が大きいことが特徴。

 今回、お花畑で見かけたミヤマキンバイと思われる花があったが、花はミヤマキンバイと言っても違和感が無かったが、葉を含めた株全体を見た時に何か変だと思えた。そしてよ〜く見たらミヤマキンバイではなくキジムシロであることが発覚した! これまでこのような標高でキジムシロは見たことが無いので驚きだった。

 キジムシロとミヤマキンバイは近縁種で花はそっくりで見分け困難であることは知っていたが、ミヤマキンバイは森林限界以上、キジムシロは樹林帯以下の中低山と完全に住み分けしていると思っていた。花だけを見たのでは両者は見分けは難しいが、葉+花の株全体を見るとミヤマキンバイとキジムシロはぱっと見の印象が結構違う。この様子を言葉で説明するのは難しいが、ミヤマキンバイは株全体から花が均一に上に突き出ていて花は横向きが多いが、キジムシロは茎が根元から地面に沿って横に延びて花は上向き。見た目の花と葉の面積比はミヤマキンバイは花がメインだがキジムシロは葉がメイン。決定的な差は葉の枚数で、ミヤマキンバイは全てが三つ葉だが、キジムシロは三つ葉もあるが5つ葉、7つ葉など奇数枚が混じる。三つ葉に見えても葉が付いている柄の根元を辿ると小さな葉が2枚、4枚とか付いていることがよくある。そして三つ葉の部分の大きさはミヤマキンバイより明らかに大きい。キジムシロにも個体差があるので全てがこの説明に合致するとは限らないが、少なくとも葉の枚数が三つ葉以外の奇数枚が混じるのは間違いない。

 なお、鹿島槍の冷池山荘テント場のすぐ北側の稜線東側のお花畑の道端でも、花はミヤマキンバイだが株全体の様子に何か違和感を感じる株がまとまって生えていたが、おそらくはあれはキジムシロだったのだろう。今年も鹿島槍は登る予定なので、その時に確認してみよう。

 2592m峰を越えて2462m鞍部近くではオオサクラソウを発見。三股へ下る途中でも見られるが、ここにもあったのは嬉しい。鞍部からから蝶槍への登り返しは発達したシラビソ樹林で日影がありがたい。でも本格的な登りで暑くなりそうなので、周囲に人の姿が無いことをいいことに道端で登山靴を脱いで半ズボンに履き替えた。ここで常念岳からの男性に追い越された。

 標高2570m付近で森林限界を突破してハイマツに変わって視界が開ける。樹林帯を抜けると花の種類は格段に減ってミヤマキンバイばかりであった。先に見える鋭いピークである蝶槍には2人姿が見えていた。常念岳方向から見る蝶槍は小さいながら槍の名に相応しい尖った姿であった。

 森林限界を超えた蝶槍山頂に到着。先客の二人はハングル語を話していたのでわざわざ韓国からやってきた登山者らしかった。今は記録的円安なので海外からの登山者にとってはタイミングがいいと思われる。

 一時は雲が減ってきたが今は逆に徐々に増えてきていて、時間が経過すると穂高が見えなくなりそうだ。安曇野側からはガスが上がってきていて既に東の空は見えなくなっていた。日が高くなるこれからの時間帯は、歩くことを考えたら日が陰った方が涼しくていいけど。

 蝶槍までの登りはハイマツの海であったが、蝶槍から先の稜線はハイマツが切れた砂礫地に変わり、尾根幅は非常に太くなる。見られる花はほとんどがミヤマキンバイで、今年初のイワベンケイが少々。ハイマツの影にイワカガミが見られる程度であった。ミヤマキンバイは今が開花のピークと思われるが、ミヤマキンポウゲ等と違って散在しておりお花畑は形成しないので華やかさに欠けるのが難点だ。蝶ヶ岳山頂まで同じような植生が続く。

 2620m鞍部で横尾方面の分岐が登場。常念岳から前後して歩いてきた男性は、昨日はここから上がってきて、今日は長塀山経由で徳沢へ下ると言っていた。その上高地方面も既に雲の下に沈んでいた。広大な稜線を緩やかに下り、蝶ヶ岳へ向けての最後の登り。こちらからだと当然ながら蝶ヶ岳山頂は見えているが、肩地形の影響で蝶ヶ岳ヒュッテが見えないのはちょっと驚き。考えてみれば蝶ヶ岳ヒュッテは常念岳山頂では見えていたが、それ以降では見えた記憶が無い。

 地を這うハイマツと砂礫地帯を上がっていくと地面すれすれに飛び立って短距離で地上に着地した鳥がいたので雷鳥かと期待した。着地点であるハイマツの裏側が見える位置まで登山道を進んだら、そこにいたのは今季初登場のホシガラスだった。

 蝶ヶ岳ヒュッテの北側に小さな岩峰があり、設置された展望盤にカメラを置いて2人組が記念撮影中だった。残念ながら雲はさらに増えて穂高の稜線がかろうじて雲の上に顔を出しているだけになっていた。上空の高い位置には薄雲があるだけだが、山が聳える高さにはどんどん雲が湧いている。まさに夏らしい光景。

 蝶ヶ岳ヒュッテ前には2人がザックを置いて休憩中。小屋の横では小さな花を目撃したが種類が不明。花はタネツケバナに似ているが葉っぱが異なる。帰宅後にグーグルの画像検索で調べたらミヤマハタザオの可能性が高そうだった。

 小屋を過ぎれば蝶ヶ岳山頂は間近だ。その手前にあるテント場は昨夜の幕営者の最後の残り組が撤収中。時刻はまだ午前8時半なので本日の幕営者が上がってくるのはもう少し先であろう。昨年は野生動物撮影用の無人カメラが設置された場所に今年はカメラは無かった。

 半年ぶりに蝶ヶ岳山頂に立つ。辛うじて槍穂高の稜線だけが見えているが、これらが雲に隠れるのにそう時間はかからないだろう。常念岳はもう見えなくなっていた。先客は高校生か大学生らしい若い4人パーティーで、スマホのシャッターをお願いされたので山頂標識の文字の正面側と背景が槍穂になるような向きで撮影。  この時間帯はちょうど「端境期」のようでその後はポツリポツリと散発的にやってくる程度で山頂は静かだった。さすがにここまで来るのにかなり疲れたのでパンを齧って大休止。もうこの先は登りは無いので楽になるだろう。安曇野側からガスが上がってきているので、下りはガスの中で涼しそうだ。

 約30分の休憩で出発。テント場西斜面の小さなお花畑にはシナノキンバイ、ミヤマキンバイ、おまけのベニバナイチゴが咲いていた。三股方面に下り始めると続々と上がってくる登山者とすれ違う。予報では今日明日とも安定した天候の予報なので入山者は多いのだろう。常念岳山頂で休んでいた大阪の男女の話では、今週末に蝶ヶ岳ヒュッテの予約を取ろうとしたら満室だったとのこと。5月からコロナは5類に引き下げられたが小屋の運用は当面はこれまでと変わらないかな。

 ハイマツからお花畑へ切り替わる境界付近の登山道脇には、いつものようにキヌガサソウが咲き、傍らにはエンレイソウも。ここはハイマツの影なので樹林帯に見られるミヤマカタバミやヒメイチゲも花を咲かしていた。周囲に雪はほとんど無いが本場のお花畑だけはまだ雪の下。7月に入ればここでも花を楽しめるだろう。

 大滝山分岐から樹林帯へ突入してもすれ違う人は多い。ここは北斜面だが残雪は皆無でもうシナノキンバイが咲き始めていた。オオサクラソウも目を楽しませる。今回はオサバグサを楽しみにしていたが、このコースでは蝶沢〜まめうち平間でオサバグサの大群落が見られるが、蝶沢より西側でも僅かながらオサバグサが咲いていた。オサバグサは葉の形状が草らしくなくシダのように見えるのが特徴だ。

 蝶沢はまだ残雪があるがヒュッテのスタッフが雪切をしてくれたようで歩く部分は水平になっているし、そもそも雪渓の傾斜が緩いので雪切しなくてもそれほど危険はない。でも夏山専門の登山者にとってはこれは有り難い処置だろう。私の場合は今回は軽アイゼンを準備したが、この傾斜なら雪切されてなくてもアイゼンは使わなかっただろう。

 蝶沢を通過すると予想通りオサバグサの盛りで白い花が登山道脇を彩る。オサバグサは花が小さいので華やかさに欠けるが、その数は圧倒的である。ここではありふれた花であるが、私が良く登る北アルプスではここ以外でオサバグサを見たことがない。開花時期は梅雨のさなかで開花期間は短いので、同じコースを梅雨明けに歩いてもオサバグサの花は見られない。

 標高が落ちてくるとゴゼンタチバナとマイヅルソウが混じるようになる。ゴゼンタチバナは普通に見られる白い花だけでなく葉っぱより僅かに色が淡い緑色の花が結構な確率で見られた。

 まめうち平では休憩中の人の姿が多いのはいつもの通り。この先はオサバグサが見えなくなる代わりに道端にイチヨウランがあるはずなので、斜面をよ〜く探しながら歩いたのだが発見することができなかった。日中なのでまともな写真が取れると期待していたのに残念。イチヨウランはそれくらい目立たない花で数が少ないのであった。

 まめうち平を過ぎるとすれ違う人はがくっと少なくなり、下ってくるトレランナーに追い越されるようになった。いつもの蝶ヶ岳の往復なら下りは楽ちんなのだが今日は常念岳からの周回で疲労が溜まっていて、下りなのに足が非常に重く特に膝がきつかった。ここまできつかったのは剱岳の早月尾根の下り以来かな。

 イチヨウランの生息範囲を過ぎてからは他の花を探しながら歩く。ギンリョウソウ、クルマムグラらしい輪生した6枚葉の小さな花、早くも花が終わりかけのズダヤクシュは標高2000m以上ならまだ花を咲かせている。今年初のユキザサが登場。雪ノ下科はセリ科並みに判別が難しく種類が多い。シロバナニガナも今年初。クルマムグラ並みに小さな白い花を発見したが初めて見る花で種類が分からず、とりあえず写真に収めて帰宅後に調べたらタニギキョウらしかった。名前の通りキキョウの仲間だが、花の大きさは高山植物のイワギキョウやチシマギキョウと比較しても格段に小さい。

 ゴジラの木を通過して急な階段を下れば最終水場の力水。この先はやっと下りが終わって水平移動なので足への負担が大幅に減る。力水以降は沢沿いで湿った場所が多く、今年初のコンロンソウやラショウモンカズラの花を見かけた。ラショウモンカズラは何度見てもミソガワソウに似ていると思ったら、どちらもシソ科で同じ仲間であった。

 今回は大いに汗をかいたので吊橋の手前の小さな沢で今年初の水浴び。濡れタオルで全身の汗を拭うと気分爽快で体感的にも涼しくなるので大好きな行事だ。ただし人目があるとやりにくいので、登山道から見えない場所か人がいない時間帯に楽しむしかない。

 沢沿いを緩やかに下って三股を通過して林道終点付近で見かけた白い花は、昨年も見たのは記憶にあるが種類までは思い出せなかった。ネットで改めて調べた結果、タガソデソウにに間違いなし。オドリコソウも咲いていた。林道終点には往路より車が1台増えて4台あり、林道歩き中にさらに1台が上がっていったので計5台。これまでに見た中で最多だった。蝶ヶ岳ヒュッテで何か作業があるのだろうか。

 三股第一駐車場に到着すると路側にも駐車されていたので一時期は満車だった様だが、この時間は前夜小屋泊まりの人や日帰りでも足の速いトレランナー等が下山しているので空きスペースがあった。ちなみに帰りに第二駐車場を見たら結構な数の車が止まっていたので、今日の入山者は軽く100人を超えていただろう。まだ本格的な夏山シーズン前であるが、常念岳や蝶ヶ岳はもう無雪期と言って差し支えない状況なので、天候次第で夏山シーズン同様の人出のようだ。車のナンバーを見ると全国区。さすがの北アルプスであった。


 今回の山行は本当に疲れて帰宅後は土日2日ともどこにも出かける気力が無くて寝たきり状態であった。それどころかこの記録を打ち込んでいる木曜日の時点でまだ足が重く疲労が抜けきっていない。考えてみれば常念岳到着時点で所要時間が4時間を越えており、これは私の足では通常ではあり得ない遅さであり、おそらく水曜日の疲労が残っていたのであろう。体のコンディションがもっといい状態でこのルートに再挑戦してみたい。

 

山域別2000m峰リスト

 

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